こんにちは!ISAKへ持っていかなければいけない書類を準備するために、そろそろ中学校に行かなきゃかな〜と思っています。久しぶりに学校に行くのが楽しみです!
今回は、朝井リョウさんの『何様』という本の感想を書いていこうと思います。
目次
1.『何様』とはどんな物語?
少し前に、ここに『何者』という本の感想を書きました。
この本は、朝井リョウさんによって2012年に発行され、2016年に映画化されました。主に出てくる登場人物は
- 二宮拓人(演劇出身で周りから一歩引いて見ている)
- 神谷光太郎(拓人とルームシェア中のバンドマン。性格が明るくコミュ力も高い)
- 田名部瑞月(米国でインターンシップを経験、聞き役になることが多い)
- 小早川理香(瑞月とは留学生交流会で知り合う、就職活動に対する意識が高い)
- 宮本隆良(理香の彼氏。就職活動に批判的だが、のちに隠れて就職活動をする)
の5人が主なものでした。他にも、拓人の先輩として「サワ先輩」が出てきます。
そして、『何様』は2016年に出版されました。『何者』のアナザーストーリーが6編収録されています。全て『何者』に出てきた登場人物に関わるアナザーストーリーで、書き下ろし作品も一つ収録されています。
しかし、主要登場人物がそのまま出てくるというわけではなく、『何者』ではスポットライトが当たっていなかった人たちが主役の作品もありました。ここでは、全6編それぞれの感想を書いていきたいです。
水曜日の南階段はきれい
この作品の語り手は、神谷光太郎です。『何者』では、バンドマンで拓人とルームシェアをしています。いつもヘラヘラしているように見えてそれでいてしっかり考え、就職でも内定を早くにもらっています。
光太郎は、『何者』で出版社に内定をもらうのですが、この短編では出版社に応募した理由を書いていました。ただ、しっかり『何者』を読んでみると、この理由って書いているんですよね。
出版関係の仕事をしていたら、連絡が取れない高校の同級生に会えるかもしれないから。
この本では、その高校時代が語られていました。光太郎は、拓人が想いを寄せる瑞月を何回かフっています。その光太郎が忘れられない高校時代の同級生…
この本の中では、一番と言っていいほど後味がいいというか、希望があるストーリーでした。「青春」という言葉が『何様』のなかで一番似合うストーリーです。
それでは2人組を作ってください
この作品は、『何者』でもメインとして出てきた小早川理香と、同棲していた彼氏宮本隆良の出会いから同棲を開始するまでを描いています。
理香は、『何者』で意識高い系のキャラとして描かれ、最終的に拓人に「自分たちは何者にもなれない」ときつい言葉を吐いています。隆良は、理香の彼氏であり、就職活動そのものを批判し「うがった見方」を持つ自分を格好いいと思っているようなキャラクターです。
その二人が、どうやって出会ったのか。読んでいて、「これは確かに『何者』と同じ作者だわ」と思いました。『何者』でも感じた、心理描写のすごさが表れています。地味に共感できるのが、また腹立たしいというか…
理香は、ある程度友達付き合いができますが、「2人組を作ってください」と言われると余ってしまうような人でした。周りの流行に頑張って乗ろうとしても、空回りしてしまいます。見ていて、「こういうことあるかも…辛いよな…」と思うところもありました(私も人付き合いは下手なので)。それでも、最後の理香の発言を見ると、同情はできなくなりました。かなり打算的なのかもしれませんが、打算的でも結局空回りしちゃうんだろうな、と思います。
逆算
この話は、松本有希という人物が主人公となっています。読み進めていくと、『何者』に出てきたサワ先輩が出てきました!『何者』では、光太郎とこのサワ先輩が好きだったので、ちょっと嬉しかったです。
サワ先輩は、ラインもフェイスブックも使っていません。だからこそ『何者』で拓人に言っていた言葉が出てくるのでしょうか。いう言葉が色々と格好いいというか、見習いたい言葉なんですよね。
「逆算」する内容は、私が考えたことのない類のものでした。それでも話として面白かったし、結末が想定外で引き込まれました。綺麗なラブストーリーでした。「こういう観点もあるのか」と、話の内容については少し意外に思いましたが、それでも面白かったです。単純にサワ先輩いい人…。
「きっかけとか覚悟とかって、多分、後からついてくるんだよ」
この本でも名言が出てきましたし、好青年です!
きみだけの絶対
この話は、烏山ギンジの甥である亮博(あきひろ)を主人公としたものです。烏山ギンジは、『何者』で拓人とともに演劇の活動をしていた人物です。その後大学を辞め、小劇団「毒とビスケット」を立ち上げます。全国紙に新進気鋭の表現者として乗るような人なので、ある程度は名が通っているようです。
その甥である亮博と、亮博の彼女が主な主人公です。ギンジの劇を見て何を思ったか。これも青春だな、って感じが少ししました。なんでも「青春」ってつけたらそれっぽくなるし、使い勝手がいい言葉ですね。
私がそう思ったのは、高校生として「人生」だったり何かをやることに対して悩んだりする、そんな姿が描かれていたからです。あまり、それを表せる言葉を知らないので「青春」という言葉で表しました。
この作品が、6編の中で唯一の書き下ろし作品だそうです。何か大きな衝撃があるわけでもないですが、しこりとして頭の中に残るような、もやっとした読了感でした。
むしゃくしゃしてやった、と言ってみたかった
この話は、桑原正美というマナー講師を主人公としています。その桑原正美が出会ったのが田名部さんです。既婚で、娘は留学中。『何者』に出てきた田名部瑞月の父親です。
桑原正美には、昔からレディースになったりと出来が悪かった妹がいます。その妹のせいで正美の両親は「喜怒哀楽」の「怒」と「哀」を感じていました。その両親を喜ばせようと、妹が問題行動を起こせば、その代わりとなるような「いいこと」を正美はやってきました。そうやって正美は妹のような「むしゃくしゃしてやった」行動を一切せず、両親の「喜」と「楽」を引き出してきました。そうやって二人揃って両親の感受尾を全部出しているんだと思っていたのです。
田名部も、妻が心が弱く数分おきに電話をかけてくるような人です。女性と歩くだけで浮気と叫び、一晩中家から出るような妻。被害者になれるきっかけを探しているような、心の弱い妻です。その妻に見合うために、いつも真面目に、必要以上に品行方正に生きていかなければいけませんでした。
瑞月の父親だと思うと、ラストが悲しいものとなりますが、正美や田名部の気持ちを考えると嫌なラストとも言えず…
一つの面だけで何かを見たらいけないということを、本を読む間にじっくり教え込まれているような思いです。
田名部さんの言った、「ああいうの不思議ですよね」「昔遊んでた人のほうが、人生わかったような気になってるのって」という言葉に、すごく共感しました。元ヤン教師とかそう言った類のものが人気になった時期もありましたが、正直そう言ったものには懐疑的です。これも、なぜかはまだしっかりわかっていないので考えていきたいです。
何様
この本は、松井克弘という人物を主人公にしています。多分『何者』で面接の時に拓人の隣にいた人物です。克弘は、入社後に人事部に配属となり、面接官の仕事をします。「誠実」や「不誠実」と言った言葉や、内定者を決める際に他の面接官が重視していることを聞いた後に、自分はそうやって人を評価するのに値する人物なのだろうか、と考える話です。一体何様になったつもりなんだろう、と苦悩する話。
この話は淡々と進んでいくので、あまり感動したりはしませんでした。話の中で他の登場人物たちも言っていましたが、克弘はかなり真面目なんだと思います。でも、その真面目が悪いこととは思いませんでした。自己分析というか、そう言った類のことをするとドツボに入る時があります。その時に先輩なり周りの人なりが助けてくれるなら、いくら悩んでもその悩みはその人自身の成長につながるのではないでしょうか。
話の中でも、克弘がドツボにはまって、先輩と話している間に答えがだんだん見えてくる。環境の変化による悩みが描かれた作品でしたが、その苦悩がかなりリアルに描かれていて面白かったです。
まとめ
ということで、朝井リョウの『何様』6編に対して感想を書いてきました。短編小説ってあまり好きじゃなくて、『何者』の続きじゃなかったら読んでいなかったと思います。でも、短編でも伝えられることは多くあるんだな、と思いました。短編、長編、どちらも面白いです。『何様』自体はかなり読み応えもあります。
じわじわと自分の弱いところをつかれている感じとか、地味にもやっとする読了感とか、すごい『何者』の続きということを思い知らされる作品でした。やっぱり心理描写とか、比喩を使った表現とかがとても綺麗でした。朝井リョウさんの作品も、合いそうなものは読んで行ってみたいです。『何者』を再読してからか、『何様』を読んでいるときに照らし合わせながら読んだ方が面白いと思います。
最後までお読みくださりありがとうございました。今回は短編集ということで、いつもとは少し違った形のブクレポになったかと思います。興味を持ったら、読んでいただけると嬉しいです!