うぐいすの音

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太宰治『ヴィヨンの妻』感想 さっちゃんは価値観を変えた→これって成長?

 こんにちは。いろんなことが積み重なって、今日はもう眠い…。明日早いしもう寝たい…。けど、自分の自信のためにも連日投稿は続けたい!ということで、やっと太宰の記事を書いていきます。

 

 今回書くのは、太宰治ヴィヨンの妻』の感想です。この話は、新潮文庫の短編集『ヴィヨンの妻』に掲載されていたものです。短編集や、著者については今までの記事からコピペします!

 

目次

 

 

 

短編集の内容紹介、著者紹介

 

 それでは、まずは短編集紹介、著者紹介など。以前までの記事からコピペします。

 

 

 

短編集は、新潮文庫の『ヴィヨンの妻』です。全部で8編が収録されています。

いずれも太宰の晩年に書かれた作品で、「死の予感」が読み取れるものも多くあります。

  1. 親友交歓
  2. トカトントン
  3. ヴィヨンの妻
  4. おさん
  5. 家庭の幸福
  6. 桜桃

このうち、7作目の「おさん」は以前ここで紹介したことがあったので、7作の感想を書いていこうと思います。

 

chirpspring.hatenablog.com

 

 著者紹介も。

 

著者は、太宰治です。太宰はもう有名ですね。

教科書題材でも『走れメロス』は定番ですし、『人間失格』という作品も題名のパワーがすごいので印象に残っている人も多いのではないでしょうか。

 青森県出身の作家で、戦前から戦後ぐらいにかけて活動しています。自殺未遂や薬物中毒などかなり破天荒というか、クセの強い人生を送ってきています。

 

この前、太宰治読了のまとめ記事も作ったので、興味のある方は是非そちらものぞいてみてください。

 

chirpspring.hatenablog.com

 

 

ヴィヨンの妻』あらすじ

 さて、それではヴィヨンの妻のあらすじを書いていきます。

この話は、太宰の女がたりらしく、駄目男の夫を持つ妻が、彼女の視点で日常を描いたものでした。

 主人公の「さっちゃん」には、放蕩者の夫(大谷)がいます。さっちゃんには息子がいて、彼は同年代に比べると成長が遅く体も弱かったため、裕福な家ではありませんでした。

 

 ある夜、さっちゃんは慌ただしい音で目を覚まします。目を開けると、そこには何かを探しているように騒々しくしている夫の姿が。いつになく優しくさっちゃんを気にかけるような言葉も言ってきます。

その姿を不審に思っていると、玄関から声が聞こえます。大谷とその人たちが言い争っていると、やがて大谷はナイフを持ち出し、言い争いの相手から逃げ出しました。

 流石に見過ごせなくなった妻は、二人を家に上げて夫がやったことについて聞くこととしました。それによると、言い争いにきた二人は小さな料理屋を営む夫婦。そこに、大谷はなんども訪れ、周りに支払いをさせることもあるなか、自分では最初の一回以降何も払わず、ただ飲み食いをしていきました。時々の周りの支払いでは全くたりず、結局は店の損になります。

あまりに眼に余る行いが増えたからと大谷を出禁にしようともしましたが、その度に大谷は皮肉を返して酒を飲みます。

 ですが、ついに大谷が5千円札を見せから盗み逃げていったため、今度は澪がせないと二人は大谷を追い、さっちゃんの待つ家にたどり着いたのです。

 

 それを聞いたさっちゃんは、「自分がどうにかするから警察沙汰だけは待ってほしい」と頼み込み、なんのあてもないまま一夜を過ごしました。次の日、約束の料理屋に行かなければいけないなか、結局さっちゃんは案を思いつかず。その夜に「お金は明日用意できそうだから、心配はしないでほしい。自分もそれまでここで手伝ってもいいか。」と言います。

 

 結局、その晩運のいいことに夫が別の女を連れて、店にやってきました。その女性に立て替えさせて、さっちゃんはお金を手に入れることに成功。その後もさっちゃんはその店で働き続け、さっちゃんという愛称で呼ばれるようになり、人気者となりました。

 

大谷は何も変わりませんが、さっちゃんにとっては料理屋で働いてからの生活は充実したものになりました。

店で働いているうちに、さっちゃんは世の中の人誰もがなんらかの罪を抱えていることに気づきます。表では無害なふりをしながらも、嘘をつかなければどうしようもなかったのかもしれません。

ある日の夜、さっちゃんは大谷のファンだという男に声をかけられ、「電車がないから」と泊めてもらえないかと言われました。その次の朝、さっちゃんは男に汚されてしまいます。

 

その日、さっちゃんは何もなかったように店へと出向き、そこで「人非人ではない。妻と息子にいいお正月をさせたかったんだ」と自分が非難されている新聞を見ながら言い訳する夫と話します。

最後の文章は、

人非人でもいいじゃないの。私たちは、生きていさえすればいいのよ。

という言葉で終わります。

 

 

 

ヴィヨンの妻』感想:さっちゃんの成長物語?

 この話、読んでいてとても面白かったです。面白かったというか、この話はさっちゃんの成長の話かな、と思っています。

成長といっても、純粋な成長とは言えないかもしれません。

 

それまで、夫の大谷の非道をなんとなくは察しながらも自分は家の中を守っていたさっちゃん。

 

彼女は、大谷が突然ナイフを持ち出してきたときにもあまり動じず、さらには料亭の夫婦が語った大谷の行いに呆れを通り越して笑い出す始末。

そういった描写から、彼女はかなり肝の座ったというか、いつも冷静でいるような人なんだと思います。少なくとも、明日までに五千円という大金を用意しなくてはいけなくなっても、あまり必要以上に悩んだりといった様子は見られません。

 

そんな彼女が、外に出て働き始めます。

それまでは夫が帰ってこない家にずっといて、成長が遅れた息子と一緒に時々夫も混ざる家族生活。

そこから突然、男性も女性も訪れる料亭で仕事を始め、人気者の女中さんになるわけです。それまではなかったちやほや感だったり、それに准ずるものも色々と感じるようになったと思います。

そうしたら、さっちゃんだって今までの人生に比べて一人の人間としてみてもらう機会が多くなるわけですから、それはもちろん楽しいでしょう。

 

 そこで、さっちゃんは学びました。人間は誰しもが清く正しいわけではなく、みんな何かしらの嘘を抱えて生きているということを。そこから、さっちゃんの価値観も変わり始めるのでしょう。最初の頃の口調と最後の頃の口調の違いからもわかるように、さっちゃんは大谷の盗んだ金を返すために動いているところらへんからだんだんとフランクな言葉遣いになっていっています。

大谷の盗みや、仕事を得たことなどで、さっちゃんは「俗世間に染まった」のではないでしょうか。良い意味とも悪い意味とも言い切れませんが、確かになんらかの変化があったんだと思います。

 

 人間は嘘をついていることを学んださっちゃんは、お客さんと関係を持ちます。そしてそれを隠したまま、夫にあの最後のセリフを言うのです。

人非人でもいいじゃないの。私たちは、生きていさえすればいいのよ。」

 

 さっちゃんは、多分夫以外と関係を持ったことを悔いていません。それどころか、これからも改める気は無いのでは。もちろん積極的に道を踏み外すかはわかりませんが、それでも何かあったら自分から特別に抗おうと言う気はないのだと思います。

 

それは、彼女が人間は嘘をつくもの、嘘をついてもいい、と思ったからです。誰しもが人非人になり得るのだから、特別誰かを責める必要はないと思ったのでしょうか。

 

 大谷は確かにどうしようもない人です。放蕩の限りを尽くした上に盗みを行う。だけど、その大谷にこだわっていなくても良いほどの広い世界、新しい常識をさっちゃんは手に入れました。この二人は、何か決定的なこと(例えば法の介入)などがない限り、多分ずっとこのままでいくんでしょう。妻は夫を改めようとせず、そのまま妻の中に自分の罪を隠して。

 

それが普通だ、と思うことで、こんなにも人の価値観は変わるのでしょうか。話自体は救いようのない話なのかもしれません。だけど、読んでいて「俗な美しさ」みたいなものが書かれていた気がしました。

読み直してみると、文章があまり悲観的じゃないんです。これは、最初からさっちゃんが冷静だと言うのもあるかもしれませんが、それにしてもどこか輝いているような気がします。イメージ図を自分で作るなら、「キラキラのグリッターが少し散りばめられている」といった感じが適当なのでしょうか…。

 

どうしようもないことが多く、それは対して特別でもないと妻が学んだからこそ、彼女と彼女の夫は許されながら生きていくことができます。この話もまた、面白いな、と思いました。

 

 

最後に

 と言うことで、今回は太宰の『ヴィヨンの妻』を書いていきました。さっちゃんは、たくましいな、と思います。さっちゃんの勤めている料亭の奥さんもたくましい方です。

現実的に物事を捉えて、それを自分にも応用する。簡単なように見えて、少し難しいのかも。でも実際はみんながやっていることだし簡単なのかも。色々考えることはありますが、それだからこそ面白いです。

 

 

 さっちゃんに一回会って、価値観の違いに驚いてみたいです。そんな体験ができたら良いな〜。それこそ異文化体験になりそうです。これで私の感覚と近かったりしたら逆に笑っちゃいますね。

 

この話は、筋だけ見ると救いようのないと言うか、悲しい話です。でも、思い返してみると明るい話だな、と思いました。矛盾してます。そこが魅力なのかも。

 

 ぜひ、興味を持った方は読んでみてください。

 

 

 と言うことで、今回は太宰治の『ヴィヨンの妻』について書いてきました。面白そうだな〜と思ってくだされば幸いです!