こんにちは。
今日は、久しぶりにブクレポを書いていこうと思います!
ミツイパブリッシングから出版されている本で、230ページくらいあります。
著者の森達也さんは広島出身のドキュメンタリー・ディレクター兼ノンフィクション作家の方です。オウム真理教信者たちの日常を描いた映画、『A』を皮切りに、様々なドキュメンタリー映画を作ってきました。著書も多く出版しており、主に命に関するもの(特に死刑)を題材としています。
そんな森達也さんの出版された『ぼくらの時代の罪と罰』(2021)は、死刑とは何かを考えながら書き進められている、命についての本です。
目次
誰でも読める、読んで欲しい本
みなさんは、死刑についての本とか、命に関する本とかは読みますか?
私は正直、あまり読みません。基本的に残酷な描写がある文章が得意ではなく、人が死ぬとわかっているものには食指があまり動かないというか…。実際に起こった事件(オオウム真理教など)については調べても、ネット上で終わらせることが多いです。
だから、死刑問題についても知ってはいても、それに関する本を読んだことはほとんどありませんでした。
この本は小説ではなく死刑制度についての実際の事象を書いた本です。
子供向けに描かれた本ではありますが、死刑制度の現状とその問題点についてわかりやすくまとめられているため、入門書として誰でも読める本だと思います。
5章に分けて書かれている内容は、
- 罪の重さを決めているのは誰なのか
- 死刑になることで得られるものとは
- 見えない極刑とは
- 他の国での死刑はどうなっているのか
などなど。
あくまでも上記のように子供向けの本ではありますが、内容は決して見過ごせるものではありません。
死刑を選んでいるのは裁判官?それとも私たち?
死刑についてしっかりと考えたことのある人が、どれくらいいるのでしょうか。
日本で「死刑はやむを得ない」と考える人は、2019年度の内閣の調査によると80%。
あなたがどう思っているかにかかわらず、今日本では「国民が死刑を選ぶ」制度になっています。
私たち自身が、死刑を選んでいるのです。
本書にはこう書かれています。
ここであなたに考えてほしい。
死刑を廃止したほとんどの国では、死刑を廃止する前の存置派と廃止派の割合は、大体六対四と共通しているのに、今の日本では8割以上が死刑存置を主張して、廃止を求める人は1割にも満たないということの意味を。
-p162
私は、まだ死刑に対しての自分の意見がありません。
だからこそ、上記の文章は少し怖いです。
このまま自分の意見がないまま進んでいけば、変化を求める理由がないまま死刑存置に傾いてしまうのかもしれないからです。明確な理由なしに。
この問題は一朝一夕で答えが出せるものではないのでしょう。
でも、自分の中で理由がないまま、人を殺すことを黙認してもいいのでしょうか?
大事なのは自分たちで考えること。
この本の素晴らしい点は、筆者が自分の意見を明記しているところです。
筆者は、繰り返し死刑に対して反対意見を述べています。賛成側の意見も述べて居ますが、自身の意見を明記しながら話を進めています。
でも、その考えを私たちに押し付けて居ません。
これは僕の意見。つまり僕の視点。立場が違う人は、きっとまた別の視点を持ち、別の意見を持っている。
自分の視点をごまかすことはできない。薄めることもしたくない。僕は思いきり自分の意見を書いた。もう一度書くけれど、あとはあなたが考えること。僕だけでなく、色んな人の意見や視点を知ったとき、死刑という制度は、きっとあなたにとって、今よりはずっと立体的なものになっているはずだ。
-p190
あくまでも、死刑について考え、じぶんの意見を持つためには知ること、調べることが大切だと述べて居ます。この本のみではなく、さまざまな意見を調べてくれ、と。
もしもこの但し書きがなかったら、少し偏りすぎている本になって居たでしょう。でも、この但し書きによって少なくとも私はもっと調べよう、という気持ちになりました。
事実をただただわかりやすく、丁寧に解説している
死刑制度以外でも、今の裁判員制度の問題など、司法に関することはいくつも書いてあります。ノルウェー訪問時の筆者の驚きなどもありました。
さまざまな人の証言などもあり、細かい部分まで知ることもできます。
絞首刑は平均14分、最長で37分以上かかること(アメリカでは絞首刑はひどい苦痛を与えることを理由に廃止済み)。
死刑囚は毎朝、近づいてくる看守の足音にビクビクしながら過ごさなければいけないこと。(死刑執行の数時間前に伝えられるため)
下手したらそれが何十年も続くこと。
自殺はしてはいけず、必ず殺されなければいけないこと。
自分が加害者になる可能性は、思っているほど低くないこと。
OECDの中で死刑を今でも全国で実施しているのは日本のみということ。(アメリカは州のうち半分近くが廃止を表明、韓国は24年も実施しておらず、他は死刑廃止国。)
冤罪は実際に起こること。
死刑に犯罪抑止効果がほとんどないこと。
他にもいろいろ、勉強になることが書いてあります。
列挙したものを見てもわかるように、この本は死刑反対の意見をベースにして書いています。
つまり、もっと色々な意見がある。もっと知らなければいけないことがある。
この本と、死刑賛成派の人の本を二冊読めばいいという話でもありません。人それぞれの考えがあります。
こうした死刑に関する事柄を知りながら、死刑が進んでいく今の状態を見るべきだし、死刑について考えるべきだと思います。
死刑反対の人もいれば、賛成の人もいるでしょう。でも理由を知らずにどちらかになれるほど単純な問題ではない。だからこそ、死刑について調べなければいけないな、と感じました。
まとめ
ということで、今回は『ぼくらの時代の罪と罰』について書いてきました。
この方がさまざまな人をインタビューして書いた、『死刑』という本があるそうです。
次は、この『死刑』と、他にも図書館で数冊見繕って借りてきたいと思っています。
最後に、読んでいて印象に残った部分を抜粋。
でもぼくは、死刑制度をめぐって多くの人に話を聞き、日本だけではなく海外の刑務所や裁判所なども取材したけれど死刑が必要であるとの理由をいまだに見つけることができずにいる。
ただし廃止すべきと考える理由は、ずっと変わらない。
どんな状況であっても、人は抵抗できない人を殺すべきではない。
これに対抗できる論理に、ぼくはまだ出会えていない。これだけ探したのに。
何度も言うように、これは著者の意見。予備知識なしにこの本を読めば私のように死刑制度に大きな違和感を持ちます。でも、そこで死刑反対にすぐになるのではなく、自分の意見に理由がもてるくらい調べ、自信がついてからなるべきなのではないでしょうか。
最後までお読みくださりありがとうございました。もしも興味を惹かれた部分があれば、ぜひ調べてみてください!この本はとてもおすすめです!!