うぐいすの音

17歳の女子が運営しているブログ。本のレビューなどしていきます。

隅の老人。安楽椅子探偵は本当に探偵だったのか?

 こんにちは。今日は、久しぶりにブログを更新していこうと思います!全然書いていなかったので、どんどん文章を書くスピードが遅くなっていますが…。

 

 何はともあれ、今日は久しぶりのブクレポをしようかと!

今日紹介する本は、バロネス・オルツィ『隅の老人の事件簿』です。

 

 

創元推理文庫から出ている本で、「隅の老人」の事件の中でも代表作13篇が収録されています。我が家にあったのは1998年に出された15版でしたが、2014年に作品社から「隅の老人」38篇が収録された完全版も出ているようです。

 

 

目次

 

 

 

作者:バロネス・オルツィ

 

それではまずは、作者のバロネス・オルツィについてさらっと紹介していきます。

バロネス・オルツィハンガリー出身のイギリスで活躍した作家です。

『紅はこべ』に代表されるような歴史ロマン小説を数多く執筆し、現在まで読み継がれています。『紅はこべ』はちょうど昨日図書館で借りてきたので、読むのが楽しみです!

 

 

ミステリ作家としては、今日紹介する『隅の老人』を登場させ、安楽椅子探偵のはしりを決定づけたことが評価されています。アガサクリスティと並び、女性の推理小説作家として有名なのだとか。

他にも、女性探偵が登場する推理小説や弁護士が登場する推理小説などを書いています。

 

この本、どんな本??

 

それでは、この本を通して読んだ感想を。

 

正直、この本は半分くらい読んだところで一回読むのをやめようかとも思いました。

『隅の老人』の特徴として、探偵である老人がほぼずっと語り続けるという点があります。安楽椅子探偵なのですから、状況描写やトリックなども全て探偵が説明しなければいけないので、それは当たり前のことなのですが。

 

それでも、今までほとんどミステリを読んでこなかった自分からすれば少し読みづらいものではありました。

それぞれのトリックも、どこか似ているものも多いというか、パターンがなんとなく掴めてきているというか。(短編という限られたページ数で事件を一つ起こすからトリックを考えるのも難しそうです…)

 

ただ、そういったネガティブな感想も、最終話まで行くと全てが覆されます

全てというと言い過ぎなのかもしれませんが、私は最終話までこの本を読んだことに感謝すらしました。

最終話がどのような内容かをここで書くと、壮大なネタバレになってしまいますからかけません。ですが、はじめて読むタイプのトリッキーな展開でした。

この本に影響を受けた作家、ミステリ本も多くあるのだろうなと思います。

 

 

なぜ、自分はこの本を正直読みづらいと思いながらも300ページ以上読み続けられたのか。

 

先ほどネガティブなことも書きましたが、それでも読み続けたのには理由があります。

トリック自体は単純というか、そこまでバリエーションに富んだものではなくても、その事件にまつわる物語、事件の現場、事件への世間の反応、そう言ったものがバリエーションに富んでいるため、読んでいて「この場合のトリックは?」と考えさせられる時があるんです。

 

それに、トリックが単純と言っても、私はあまりトリックを解こうとしない(解けない)読者なので、実際に「あ、この人だ」って思たことは多くありません。

この『隅の老人』では事件を紹介するのも安楽椅子探偵である老人の場合がほとんどなので、親切な伏線に気づくことも時々あります。

 

多分再読すればよりツッコミどころも多くなるとは思いますが、そんなことは今はいい!と思えるほどの探偵っぷりでした。

 

隅の老人って結局誰なの??

 

そもそも、この本のタイトルは『隅の老人の事件簿』です。

そして、この本の探偵は「隅の老人」です。

本の実に9割以上は、「隅の老人」の会話文です。

 

それでは、この「隅の老人」って結局誰なんでしょう?

 

推理小説では、基本的に探偵が主人公、もしくはそれに近い役割にいます。

そして、有名な探偵には大抵名前があります(例外ももちろんありますが)。

ホームズ、ブラウン神父、ポワロ、ミス・マープルデュパン明智小五郎金田一浩介、、、。

 

でも、この隅の老人、名前はありません。

名前がないのに加えて、経歴も正体も一切不明です。

わかっていることといえば、ノーフォーク街のABCショップに現れてチーズケーキを食べてミルクを啜ること。

 

外見は、禿げ上がった頭頂に薄い髪の色。目は淡い水色で大きな角縁の眼鏡をかけていて、服はダボダボの該当。常に紐の切れ端を持っていて、それを結んだりほぐしたりしながら話しています。

想像してみると、どこかの浮浪者?

ちょっと怖いです。

 

 

安楽椅子探偵の先駆とも言われ、元祖安楽椅子探偵の1人ですが、その姿は予想以上に活動的。自ら証拠を集めに行ったり、検死審問に呆れるほど出かけていたり。

確かに話すのは椅子に座ってですが、それまでに割と活動しているので今の「安楽椅子探偵」とはちょっと違うのかも。

それでも、当時からしたら画期的な姿だったんだろうな〜と思います。

 

いわゆる「ホームズのライヴァルたち」の1人(ホームズの成功後に次々と現れた探偵たちを指します。)ですが、その探偵としての姿はかなり異なっていると言わざるを得ません。

 

ホームズに代表される探偵は、警察の手伝いをするなど、謎を明らかにする→社会の役に立てる ことを一連の流れとして行っている人たちが多いと思います(いうほどミステリ読んでいないので断言できませんが…)。

 

その中でこの「隅の老人」は、ワトスン役の女性記者に対して推理を語るだけ。犯人が分かっても、基本的には自分が難事件の真相を暴くためだけに推理しているため、警察にも届けません

 

とにかく怪しい人物。

 

最終話でその正体が垣間見えますが、それでも十分とはいえないのかも。

私たち読者は、一方的にこの老人から与えられる複雑怪奇な事件の謎とともに、この老人自体の謎にも囚われなければいけません。

そんな二重の謎が詰められているこの短編集は、短編とはいえない満足感が読了後にありました。

 

ぜひ、皆さんも余裕があれば最後までこの作品を読んでみてください!

私が特に好きだった短編は『商船アルテミス号の危機』です。この作品は、読んでいてハラハラするような場面展開とゾクっとするような描写が短いページ数の間に収まっています。

改めて読むと1編ずつがもちろん面白いのですが、この短編は特にお気に入りでした。

 

 

私にとってこの老人は、その外見と語りっぷり(懇切丁寧に事件を教えます)からもどこかホームズの宿敵モリアーティを思わせるような存在でした。

探偵として異色な存在でもある『隅の老人の事件簿』、ぜひ読んでいただきたいです!

 

最後までお読みくださりありがとうございました。全編読んだ後に、自分の中で「この老人に会いたいか、会いたくないか」を考えてみるとかなり面白かったですよ!