うぐいすの音

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又吉直樹『火花』読んでみました。

 こんにちは。今日はこの前の記事にも書いた、一人カラオケを実現させてきました(笑笑)!歌はどっちかと言わなくても音痴なのですが、「なんか面白そうだし暇だから!」という軽いノリで行ってきました!都会では全くないため、1時間近く歩いてきました… まあ、いい経験になったと思いますが、また行くかは神のみぞ知る…?

 

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 今回は、又吉直樹さんの『火花』を読んだ感想を書こうと思います!お笑い芸人ピースの又吉直樹さん。芥川賞を受賞した作品として、話題になったのを覚えている人も多いのではないでしょうか。この本が芥川賞を受賞したのは2015年の夏でした。私がイギリスに行く直前、もうかなり前のことですが、テレビが家にない私でも耳にしたニュースだったことを覚えています。

火花 (文春文庫)

火花 (文春文庫)

 

 

目次

 

本のあらすじと、読む前に抱いていた印象

 まずは本のあらすじを紹介しましょう。この本は売れない芸人の徳永が、先輩芸人である神谷に「弟子にしてください」と頼み込むところから始まるお話です。

 最初の舞台は熱海。前の出演者がノリに乗ったせいで、花火大会のど真ん中で花火が鳴っている間漫才をしなければいけなくなった徳永。徳永たち「スパークス」も当然のように笑いを取れなかったものの、スパークスの後にトリとして(花火の真っ最中に)出演した神谷たち「あほんだら」は、暴言のようなものを客に投げつけるなど、主催者の怒りを思う存分食らった結果に。その熱海の帰りに、徳永と神谷はご飯を共に食べ先述のセリフから「師弟関係」になります。

 神谷の「伝記」を書くことを条件に始まった師弟関係でしたが、奇想天外な神谷に人間味あふれるところを見つけ入れ込んでいく徳永と、その徳永に心を開き始めた神谷とはいいコンビとして描かれていたように思います。そこから紆余曲折あって話が終わるわけですが、これ以降のあらすじはあまりここでは触れないようにします。

 

 

 私の中でこの作品は、芥川賞受賞作品として記憶に残っている作品でもあるし、書店で見かけたことも何回かあったので、いつか読んでみたいとは思っていたもののなかなかきっかけもなく… 先日知り合いから勧められて、ついに手に取ることができました。

 私が最初に勝手に抱いていた印象は、「淡々と話が進んで、よくわからないままに本が終わる」と言った印象でした。なぜかというと、何年か前に同じく読書好きの友達数人がこの本を読んで、「考えさせられる本だった」という人もいれば「よくわかんなかった」という人もいたからです。でも感想を教えてくれた人は「ワクワクする感じじゃない」「淡々としている」と行った感想を一律して持っていました。

当時はファンタジー小説だったり青い鳥文庫だったりを読んでいた私たちにとって、『火花』は少し背伸びした作品だったのかな、と思います。

 

読み終わってから感じたこと-「人間」

 読み終わってから一番最初に浮かんだ感想は、「人間って感じだな」。

次に浮かんだ感想が、「太宰治の『人間失格』みたい」。

 『人間失格』は、中一の時にかなり真剣に読んだので、記憶に残っている作品のうちの一つです。その本と、告白調の文章ということもあるでしょうが、重なって見えるところが多々ありました。『人間失格』は繊細な主人公が色々と葛藤しながらも「人間」になることを諦めきれなかった作品です。

 『人間失格』の主人公と、『火花』の神谷さんが、どこか似た雰囲気があるな、と思いました。正直、どこが似ているかと言われるとあまりよくわからなかったので、そこはまた今度しっかり考察していきたいです。

 でもどちらでも「人間のあり方」や「人間の生き方」などを考えさせられる作品だったので、そう行ったところで共通点を見つけたのかな、と思います。

 

 話は、全体的に明るいわけでもなければ劇的な変化があるわけでもありません。徳永はテレビのレギュラーを一応持ったりもしているので、そういう意味では大きな変化なのかもしれませんが、さらっと書かれているのであまり意識するような文章ではありませんでした。

 それでも、生気を失わないというか、「なんとかなる」といった意思が至る所から読み取れたと思います。悲観的になるわけでもなければ楽観的になるわけでもない。ただ、その時に起こっていることを一生懸命考え、それに対応していく。そうした中で起こる日常の変化や考え方の変化などを書いている作品だと思いました。

 登場人物たちは売れない芸人のままだし、神谷に至っては自己破産までしています。なのに悲観的になれないのは、徳永が神谷を見る目が優しかったからだと思います。徳永は、神谷を尊敬しているし、神谷を信じている。

徳永の目線で神谷を見ているわけではありますが、神谷をそこまで盲信する徳永の気持ちにはなりきれませんでした。正直、この神谷さんという人が実際に知り合いにいたら話しかけるより前に距離を取っている気がします。

 それでも、徳永は最後まで神谷に優しいんです。最後の最後で、徳永も神谷を否定する言葉を言いますが、それでも見限ったわけではありませんでした。そういった、神谷に対する優しさ、そして徳永の目線からみた神谷の純粋さが、この物語を読みやすくしていると感じました。

 徳永も神谷も、世間を相手に商売する芸人です。その中で、神谷は世間の声を気にせず、ただ自分の理想の「お笑い」を追求しています。世間の声を気にしていた徳永が、そういった神谷の姿に憧れるのもわかる気がしました。自分が持っていないものに憧れる、と言いますが、実際その通りになったお話だと思います。

そうして、世間を気にしない神谷に憧れた徳永が、最後のシーンで神谷に世間体を説くところ。世間体や常識を神谷に気遣いながらも語った徳永のセリフは、全部真っ当なものでしたが、それでも読んでいて少し悲しかったです。世間に順応できない(常識を気にしない)人の末路は結局こうなるのか、と思いました。

 

 徳永も、神谷も、もちろんその周りの芸人たちも、みんな精一杯やっています。それでも売れない、テレビには出られない、借金が溜まっていく。でもそれは、誰が悪いわけでもないから誰も責められません。強いていうなら売れるネタを書くべき芸人さんが責められるのかもだけど、そっちで生きていくと決めた時点でもう精一杯やっていることの証明にもなるのではないでしょうか。

誰も責められないからこそ、結末に向かうまでの道筋と結末がもの悲しく感じられます。

 

『必要がないことを長い時間変えてやり続けることは怖いだろう?』

 物語は、終始スラスラ読めるような文章でしたが、徳永たちスパークスの最後の漫才は注意深く読んでしまいました。それまでの半生をかけてやってきたものをやめる、というのがどういう気持ちなのかよくわかりませんが、読んでいて圧倒されるような文章でした。

特に、最後の漫才が終わったあとの文章。『火花』は、文章が冗長でなく、それでいて表現豊かなのでとても読みやすいのですが、最後の漫才が終わった後の文章は勢いのまま書いたような文章に見えました。これがそのまま、『火花』を通して学べる教訓のうちの一つだと思います。

 

 自分が考えたことで誰も笑わない恐怖を、自分で考えたことで誰かが笑う喜びを経験して欲しいのだ。

必要がないことを長い時間変えてやり続けることは怖いだろう?一度しかない人生において、結果が全く出ないかもしれないことに挑戦するのは怖いだろう。

 

 この文章は、かなり重い文章だと思います。自分が一生懸命やったことに対し反応がなかったら。それを考えると、一生懸命何かをやることを恐れる人はたくさんいるのではないでしょうか。一生懸命やった人たちの中でも成功者と脱落者が出る。これは、色々な世界で共通することだと思います。

それでも、一生懸命自分が思うようにやっても結果が出ない神谷さんは、周りの存在のことをこう捉えています。

 

周りにすごい奴がいっぱいいたから、そいつ等がやってないこととかそいつ等の続きとかを俺たちは考えてこれたわけやろ?

ほんならもう共同作業みたいなもんやん。同世代で売れるのは一握りかもしれへん。

でも、周りと比較されて独自のものを生み出したり、淘汰されたりするわけやろ。この壮大な大会には勝ち負けがちゃんとある。だから面白いねん。

でもな、淘汰された奴等の存在って、絶対に無駄じゃないねん。

 

これは、綺麗事なのかもしれないけど、淘汰され続けている神谷さんがこの言葉を言えることがすごいな、と思いました。この文章で、神谷さんのすごさに私も気づけた気がしました。影があるからこそ光があるというように、色々な人がいるからこそ競う場もできるはずです。その中で光になることこそできなくても、自分がいる位置を把握し、自分の立場を知った上で肯定しているんだと思います。

お金はもらえないし、有名にもなれないけど、それでもこういうセリフが言えるのは強がりではなくて本心なんだろうな、と思いました。

 

まとめ-ぜひ読んでみてください!

ということで、『火花』の感想を書いてきました!

 神谷というかなり濃いキャラクターが登場人物でしたし、漫才もあまり身近ではないので書き方によっては派手な作品にもなると思いますが、『火花』はすっと入ってくる作品でした。純文学に分類されるようですが、とても読みやすかったです。

何より、今まで読んできた本の多くはラノベで恋愛や友情がメインのものだったので、こういったなんとも言えない(師弟関係?)関係性がすっと頭の中に入ってくることに少し驚きました。

 やっぱり本の感想を書くのって難しいな、と思います。この本の魅力を伝えたいな、と思ってもうまく書けません。でも、ぜひ読んでもらいたいです。

「人間」の色々な面が如実に表れている作品だと思うし、お笑いに対する考え方などもかなり書かれています。単純に物語として読むのも面白いと思うし、考え方を取り入れるために読むのも面白いと思います。

 

 最後までお読みくださりありがとうございました。少し前の本に思えるかもしれませんが、いつでも読んで楽しめる本です。どこかで見かけたら、手にとってくださると嬉しいです。この本を勧めてくれた人、ありがとうございました!

 

 

追記

 

chirpspring.hatenablog.com