うぐいすの音

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太宰治『親友交歓』感想 「威張るな」の意味

 こんにちは。今日は朝早く起きてボランティア関係のミーティング!「仕事」にするなら金をもらえ、みたいな文章を見たことがありますが、多分私はボランティアでもなんでもやっちゃうんだろうな…という予感が。別に楽しければそれでいいです(笑)

 

 今回書くのは、また太宰の短編です。この前、『女生徒』の短編集を読んでその感想を5回くらいに分けて書いてきました。

 

chirpspring.hatenablog.com

 

それで太宰をもっと読みたくなり、また新潮文庫の短編集『ヴィヨンの妻』を読みました。今回は、その短編集からまた一話ずつ抜粋して感想を書いていこうと思います。

 

 

目次

 

 

内容紹介&著者紹介

 

 それでは、まずは短編集の内容紹介と著者紹介へ。

短編集は、新潮文庫の『ヴィヨンの妻です。全部で8編が収録されています。いずれも太宰の晩年に書かれた作品で、「死の予感」が読み取れるものも多くあります。

  1. 親友交歓
  2. トカトントン
  3. ヴィヨンの妻
  4. おさん
  5. 家庭の幸福
  6. 桜桃

このうち、7作目の「おさん」は以前ここで紹介したことがあったので、7作の感想を書いていこうと思います。

 

chirpspring.hatenablog.com

 

 著者紹介も。これは、今までの記事からのコピペです。

 

著者は、太宰治です。太宰はもう有名ですね。

教科書題材でも『走れメロス』は定番ですし、『人間失格』という作品も題名のパワーがすごいので印象に残っている人も多いのではないでしょうか。

 青森県出身の作家で、戦前から戦後ぐらいにかけて活動しています。自殺未遂や薬物中毒などかなり破天荒というか、クセの強い人生を送ってきています。

 

ヴィヨンの妻(新潮文庫)

amzn.to

『親友交歓』あらすじ

 

 さて、それでは今回は、この中の一作目『親友交歓』のあらすじを書いていきます。

『親友交歓』は、主人公の「私」が小学校時代の「親友」と飲んだ夜のことを描いている作品です。一人称になっています。

 

 登場人物は、「私」「平田」「女房」が主な3人。

本は、

昭和二十一年の九月のはじめに、私は、或る男の訪問を受けた。

の文章から初まっています。 終戦から一年ですね。

 

 「私」は罹災して東京から故郷の津軽に家族と避難していきています。

そんな中、小学校時代の同級生で「親友」と名乗る平田が家にやってきました。

確かに、「私」も平田の顔にかすかに見覚えがあったため、家に招き入れました。

 

平田は、小さい頃に「私」と喧嘩をよくしていて、まだ傷も残っているという話をしましたが「私」の方には平田のいうことで覚えていることもなく、傷もありません。「私」は曖昧に微笑して話を聞いていました。

 

 平田は、まずクラス会についてを会話に出しました。

久しぶりにクラス会を開きたい。

そのために、お酒を2斗ばかり集めたい。どうすればいいだろうか。

という相談です。

「私」はお金を出しましたが、平田は

「後々もらうことになるかもしれないが、今は相談む含めて昔の親友の顔を見たくてきたんだ」

と言います。

 

 お金を引っ込めた「私」に、平田は突然「酒はないのか」と言い出しました。「かか(「私」の妻)のお酌で一杯飲ませろ」と。

「私」の女房は、垢抜けておらず愛想も大して良くなかったため、とっさに「女房はいない」と嘘をつき、お金がただあれば買えるわけでもないほどに高級なウィスキーを出しました。

 

 それを平田は風情のないことを言いながらどんどん飲み出し、「私」が全く関心の持てないことを話し出しました。

また、「私」のしくじりを弱みのように話しそれに漬け込もうという気配すら感じられ、「あさましくつまらないもの」とすら「私」は思っています。

 

 その後、平田は悪酔いして自慢話をどんどん進めました

平田自身と「私」の先祖を比較したり、女房を呼んでこいと騒ぎ立てたり。

妻に対しても実のない話をとうとうと話し、騒ぎ、無惨な歌を歌い、5・6時間ほどいたところでやっと帰ると言い出しました。

 

 「私」はもちろんそれを止めず、平田の言葉に従って残った最後のウィスキーも手渡し記憶にない男との「親友交歓」を終えたのです。

 

きわめつけは、平田が別れ際に玄関まで送っていった「私」に囁いた言葉でした。

 

「威張るな!」

 

 

 

『親友交歓』感想:「威張るな」の意味は?

 この話を読んで、一番最初に思ったのは「嫌なお話」ということでした。

わがままで、めちゃくちゃで、ともすれば身元もしれない人が家に上がり込んで理不尽なことばかり言っていきます。

しかも、家にあった秘蔵の酒は全て手をつけていって、最終的には「威張るな」の一言です。

何様なんだろう、とも思いました。

 

 でも、読み直してみると、この「威張るな」の意味がわかったような気がします。

最初に読んだときは、この「威張るな」は何を指しているのか全くわかりませんでした。

なんなら、

この平田は別に同級生ではなく本当に知らない人で、いろいろなことにつけ込みながら結局「私」が何も言わなかったため、

そこまで余裕があるのかと思い「威張るな」といったのかもしれない…

とまで思いました。

 

 ですが、もう一回考えてみると、違うと思います。

「私」は、話していて楽しくないということを自覚しており、曖昧に笑って言われたことをなだめながらこなしていました。

本を読んでいるだけで、私が「この平田さんとんでもないな…」と思ったくらいですから、「私」も当然平田さんを尊敬していなかったでしょう。もしかしたら、見下したり心の中で哀れんでいたのかもしれません。

 

その憐れみに気づいたからこそ、平田も「威張るな」といったんだと思います。

自分が何をやっているのかわかっていても、それが止められないことはあると思います。

 

平田も、自分が格好悪いことをわかっている上で、

それでもああやって虚勢を張らなければ話せないのかもしれない。

だけど、それを見下されて見過ごせるほど自分に自信をなくしたわけではないのでは。

平田が「私」のしくじりを持ち出して笑ったのも、

平田にとって「私」のしくじりは自分と同レベルか、

それよりもレベルが低いものだったのかもしれません。

自分と同じだと思っていた者に理不尽につっかかったら、

止められるどころか言いなりになって余裕を醸し出してきた。

だからこそ、「威張るな」といったのだろうと思います。

 

 また、こうやって自分勝手に人に振る舞う人というのはどこにもいるものだと思います。

共感しやすい、というのもこの物語の一つの魅力かもしれません。

もちろん、平田ほどに傲慢な人はなかなかいませんが、それでもこういった人はいる、と感じました。

「私」が有名になったから、その「私」と友達なんだ、飲んだんだ、そう言いふらしたくてきたのかもしれません。

そういった見栄の張り方は、今でも普通にある考え方だと思います。もちろんそれがいいというわけではないですし、基本的には悪いことだと言われます。

自分の利益のために人を利用するという考え方は、批判されますが私の中にもその考えがあると思うし誰もににその考え方はあると思います。

その考えが強い人も弱い人も千差万別ですが。

 

一緒にいて楽しいから、その人との関係は友達・親友になります。

それなら、その友達、親友とはどうやって付き合っていけばいいのでしょう。

親友と名乗る平田は、「私」のことを利用したり愚痴のはけ口に使ったりしてきます。

誰しもが持つであろう「人を利用するという考え方」。

それを微かにでも感じている「私」は曖昧に微笑んで、無難にこなそうとしていました。いわゆる大人の対応というやつだったのかも。

でも、それは「親友」にする対応だったのでしょうか。

文句が気兼ねなく言えるからこそ親友なんじゃないでしょうか。そもそも、この疑問も平田のことを覚えていない「私」にとってみれば心外のものかもしれません。

友達って難しいな、とも思いました。

 

 

 

「私」ってだれ?

 

ちなみに、「私」は、東京に住んでいて罹災して故郷の津軽に戻ってきています

物語の中で「私」は修二と呼ばれています。

また、ウィスキーは「お酒の好きな作家の井伏さんなんかやってきたら飲んでもらおうとかなり大事にしていた」物でした。

 

ここから、なんとなく感じることはありますよね。

太宰治は本名を津島修二といい、出身は青森県津軽)です。

そして、作家の井伏鱒二は太宰と交流がありました。

 

この作品は、完璧に太宰が体験してきたことなのかもしれません。

全てが実話なのか、それとも大筋以外は太宰の考えたフィクションなのか。

少し調べましたが、特に出てきませんでした。もしくは、主人公を自分に設定しただけで特に体験したことではなかったのかもしれないです。

少なくとも、「私は東京で女関係の大しくじりを何回もやった」と書いてあるので、

太宰自身が「私」のモデルであることはほとんど間違いない…と思います。

 

もしもこれが太宰が本当に体験したことだったとしたら、それはそれで面白いなと思いました。

自分が体験した嫌なことを本にして、それを世の中に出版するのって、家族に愚痴をいうのとかと同じような心境なのかも…。

「こんなことあったんだけど〜」とかいうのと似た心境でこの話を書いたのだとしたら、面白すぎるなと思いました。ただ、これは私のただの想像(妄想?)なのでそこはご理解ください!

 

 

最後に:やっぱ太宰ってすごい!

 

 ということで、今回は太宰治の『親友交歓』の感想を書いてきました。

『親友交歓』は、とても読んでいて面白かったです。

一回読んだだけだとよくわかりませんでした。しっちゃかめっちゃかの嵐が訪れたみたいな感じで。

だけど、読み直していくうちに言葉の意味がわかったり、平田から見た「私」を想像したり、新しい気づきもいくつかありました。

気持ち悪くなく、ただムカつく人の作り起こす嵐の中に放り込まれた感じ…。

いろんな話がありますね。この頃読んでいるおかげで、太宰のイメージが変わりっぱなしです。変わっているというか、増えているというか。でも、とりあえずめっちゃ面白いことだけは確か!

 

次は「駆け込み訴え」を読んでいきたいです。前から勧められていたのですが、読めていなかったので今日こそ!

 

 最後までお読みくださりありがとうございました。太宰ってやっぱり面白いんですよね…。でも、本ばかりに構っていないで勉強もしっかりやっていきます!